場面緘黙の子どもへ具体的な支援と対応

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2016.02.26

場面緘黙の子どもへ具体的な支援と対応

TOPIC──────────────────────────────
■ 連載:場面緘黙の子どもへ具体的な支援と対応
■ 連載:試した時点で大成功・大成長!
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──■ 連載:場面緘黙(ばめんかんもく)の子どもへの理解と対応
(第4回)具体的な支援と対応
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連載『場面緘黙の子どもへの理解と対応』の第4回は、かんもくネット事務局、元緘黙児の保護者が、第3回に引き続きお届けします。

◆「様子をみましょう」で、本当に大丈夫?
「そのうち話せるようになります。しばらく様子をみましょう。」
専門家からこんなふうに助言を受けたという保護者の声を耳にします。
専門家からこのようなアドバイスを受けた場合でも、保護者や周囲の人はすぐに子どもへの支援を開始してほしいと思います。連載第3回に、支援を受けずに症状が悪化していった子どものケースについて書きました。場面緘黙は様子を見るだけで自然に改善するものではないと私は思います。

自然に治ったように見えるケースは、本人の努力とラッキーな環境や条件が偶然にうまく重なった場合と考えた方がよいと思います。

◆場面緘黙の支援方法は?
連載第2回にあるように、まず最初にすべきことは、場面緘黙児の不安が軽減されるように、家庭と園・学校と連携して、環境を整えることです。
そして次に、症状改善への取り組みをスタートさせます。
場面緘黙への介入には、どのような方法があるのでしょうか? 海外の実践的研究では、場面緘黙の治療は行動療法が有効とされています。エクスポージャー法(暴露療法)、刺激フェイディング法、シェイピング法などです。

◯場面緘黙の治療法 (図はこちら>>
参考文献『先生とできる場面緘黙の子どもの支援』
クリストファー・A・カーニー著 大石幸二監訳(学苑社)2015 から引用

「行動療法の専門家が近くにいない」と落ち込む方もいるかもしれません。しかし、専門家でなくても基本原理さえ理解できれば、保護者や普通の先生でも実践できる部分があります。いいえ、子どもにとって一番身近な親だからこそできることも多いのです。保護者がリードしながら親子で実践していく方法を簡略に説明しましょう。

・子どもの「活動」「場所」「人」の不安レベルを把握し、不安レベルが小さい順からスモールステップでチャレンジしていきます。
・発話だけに注目するのではなく、コミュニケーション体験を少しずつ積んでいくことが大切です。
・「やってみたらできた!」と子ども自身が達成感を味わえるようにします。自信をつけることで、次のチャレンジにむかう力が養われていきます。
・家庭と園・学校と連携して、環境を整えながら経験値をあげていきます。

しかし、実際に始めると・・・
仕事もあり、他にきょうだいもいて、思うような取り組みができない。
先生は大変忙しそうで、協力していただくことをお願いしづらい・・・。

そんな思いをしている保護者は多いのではないでしょうか。
でも、思うようにできない自分を責めないでください。
「できる時に、できることを」を心がけて、根気よく続けていくことが大切だと私は思います。

かんもくネット著の本(※)には、かんもくネット会員による取り組みがいろいろ載っています。ここでは、フルタイムの仕事を抱えながら、緘黙の子どもの支援を実践しているおかあさんのケースを紹介します。

◆「そのうち治るよ」と言われたが・・・
保育園入園前から、Aちゃんには場面緘黙の症状と緘動(動きがぎこちなくなる)がありました。おかあさんはAちゃんが4歳の時、専門機関に相談に行きましたが、そこで「大丈夫。そのうち治りますよ」と言われたそうです。専門家のアドバイスに納得がいかなかったおかあさんは、自分で調べて場面緘黙という言葉を見つけました。本(※)を購入して勉強し、支援を開始しました。

おかあさんは、来てくれるAちゃんのお友だちを頻繁に家に招き、遊ぶようにしました。回数を重ねるうちに話せるお友達が少しずつ増えていきました。保育園では、年中から卒園まで週2回のペースで、お友だちとおかあさんもいっしょに遊ぶ取り組みを続けました。
◯参考文献『場面緘黙Q&A』学苑社 (詳細はこちら>>

◆小学校入学に向けて
幼少期から新しい環境に慣れるのに時間がかかっていたAちゃん。
おかあさんは小学校入学前の春休みに、Aちゃんといっしょに人が少ない小学校を訪問しました。校庭で遊んだり、教室で学校ごっこをしたり、本読みをしたりして、少しでも学校に慣れるように働きかけました。

入学式の日、おかあさんは、1年生の保護者全員に理解をお願いしました。
Aちゃんが恥ずかしがり屋なこと、わざと黙っているわけではないこと、話しかけてもらうと嬉しいと思っていること、遊びに誘って欲しいことなどを話したのです。また、夫婦でPTA役員になり、学校行事の準備にもAちゃんを連れて行きました。少しでも学校に慣れるようにするためです。下に弟が生まれて3人きょうだいの子育てはとても大変でしたが、おとうさんも、近所のお友だちを誘い、いっしょに公園で遊ぶなど大変協力的でした。こうしてAちゃんは、少しずつ話せるお友だちと場所が広がっていきました。

◆「話せないこと」を親子で話題にするか
私がAちゃんのお母さんと知り合った時、Aちゃんは4年生でした。
その頃のAちゃんは、学校では特定のお友だちと少し話せるけれど、先生とは全く話せない状態。おかあさんは、Aちゃんとこれまで場面緘黙の症状について話題にしたことがなかったそうです。「学年があがるにつれて、良くなってきているので、話せないことに触れると、かえって意識してよくないのではと思って言い出せない」とのことでした。

私はおかあさんに、Aちゃんは自分の状態を知った方がいいと、場面緘黙の本人むけの本を読んでもらうことをお勧めしました。緘黙の子どもは話せない自分に不安を抱えています。「自分の他にも同じような子どもがいること」「話せるようになる方法があること」をAちゃんにも知ってほしいと思ったのです。「自分の状態を知ること」が不安と向き合うことができる第1歩だと、私は思います。

◆自分の状態を理解し、先生との電話にチャレンジ
おかあさんはドキドキしながら、場面緘黙の本人向けの本(『どうして声が出ないの?』学苑社)をAちゃんに渡しました。ところが、Aちゃんは家にあるこの本を見つけていて、すでに読んでいたのです! Aちゃんも実は話せない自分を気にしていて、でもおかあさんにそのことを話し出せないでいたのかもしれません。
◯参考文献『どうして声が出ないの?-マンガでわかる場面緘黙-』学苑社 (詳細はこちら>>

Aちゃんとおかあさんはいっしょに本を読み、そして本の中にある「不安度チェック表」もゲーム感覚でつけることができました。自分の状態を理解したAちゃん。親子でポイントカードを使ったチャレンジを始めました。少しずつステップを踏み、先生と電話で話せるまでになりました。

◆長期休みを利用した取り組み
Aちゃんは先生と電話で話すことを数回続けた後、冬休みを利用して「学校での先生との会話」にチャレンジしました。
「体育館でボール遊び」→「図書室でトランプ」→「カルタやなぞなぞ」と、親やきょうだいと一緒に先生と遊んで、ついに先生と直接話せるようになりました。このような長期休みの活用は、先生も子どもも比較的負担が少なく、とても有効な方法と思います。

Aちゃん親子の実践例からは、場面緘黙への取り組みを行う時に大切なことは3つあると思います。
(1) おとうさんやきょうだい、先生など周りの人に協力を求める
(2) 楽しい活動
(3) 場数を踏んで自信をつける

場面緘黙の取り組みは長期戦です。
保護者は1人でかかえすぎないようにしてください。
子どもに寄り添い、子どもの成長を少し後押しするタイミングを見逃さないようにしてください。
あせらず、そして、あきらめないでください。
子どもの未来をよいイメージで思い描いてください。

次回の「場面緘黙の子どもへの理解と対応」は最終回になります。

『なっちゃんの声-学校で話せない子どもたちの理解のために-』
『どうして声が出ないの-マンガでわかる場面緘黙-』
(共に学苑社) 著者はやしみこ

 

──■ 連載:イイトコサガシから始まるコミュニケーション
第2回 試した時点で大成功・大成長!
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「発達障害にある生き辛さの本質は、コミュニケーションにある」と、イイトコサガシは考え、ワークショップに特化した形で開催を続けてきました。そこでわかったことは、生き辛さというのは単独で生き辛さになっているわけではない、ということです。コミュニケーションのスキル、テクニック、経験が不足していることよりも、更に厳しい生き辛さが根本にあったのです。

それは試すことに対する恐怖心、です。

しかし、これは発達障害当事者特有のものではありません。日本社会全体がその傾向を持っています。
(発達障害当事者は生き辛さによってさらに顕著になっているということ)
イイトコサガシ・ワークショップの参加者に関しても、なかなか試せない方が一定数いるという課題は常にあり、ファシリテーターとしても頭の痛い所でした。

要するに、
「批判・助言は一切なしです、必ずイイトコサガシが還ってきます」
と言ったから試せるわけではない、ということです。

無理にワークショップを強制するのはよくありません。そんなことをすれば、心に深い傷をつけてしまいます。とは言え、見学やパスを認めてしまえば試さない人が続出し、試して参加する人が観察対象になってしまいます。

そして、イイトコサガシ側が
「一緒に試してみませんか?」
と参加者にお願いするようなスタンスになってしまい、ワークショップの磁場が狂ってしまいます。

・参加者をいかにその気にさせるか?
・どうしたら試してもらえるか?

という工夫はもちろん必要ですが、ワークショップを運営する側が、ワークショップに集中できる一線も必要なのです。
(特にイイトコサガシの場合は開催回数が多いため)

この課題に多大な貢献をしてくださったのが、Analog Game Studies(アナログ・ゲーム・スタディーズ)の田島淳さん。田島さんはイイトコサガシのワークショップ開発検討会後のミーティングで、
『「イイトコサガシ・ワークショップに対する参加のスタンスをはっきりさせた方がよいと思います。
成功・失敗を決めるワークショップじゃありません。
試すだけでイイトコサガシとしてはOKなんです!
ということを参加者に徹底して伝えていかないと、この問題はいつまでも続いてしまうと思います」』
とズバリ言ってくださいました。

イイトコサガシに意識改革が起こった瞬間、です。

それ以来、イイトコサガシでは、
「イイトコサガシ・ワークショップは、成功・失敗、上手い・下手、できる・できない、他人との比較をする場ではありません。イイトコサガシはコミュニケーションを楽しく試す、気付く、創り上げるのが目的です。試した時点で大成功・大成長です!」
と、何度も繰り返すようになりました。

試した時点で大成功・大成長!の言葉が、合言葉になると、ワークショップの質も変化してきました。今までのイイトコサガシ・ワークショップは、
「どうしたら、社会に適応しやすくなるか?」
「どうしたら欠けているスキルに気付けるか?補いやすくなるか?」
「コミュニケーションの型をどうやって身に着けるか?」
という所に主眼が置かれていました。

しかし、それ以降は
「試す楽しさを味わえるワークショップとは?」
「楽しく混乱できるワークショップとは?」
「社会適応ではない、自分らしさを試すワークショップとは?」
などにシフトして行ったのです。

試す力が土台として身に付けば、色々な選択肢を試せるようになります。
逆に言えば、試せない人はいつまでたっても選択肢が増えません。
※ そして試せない大人が自分は試さず、子供や若者にだけに試せ!と迫ることも非常に多いのです。

だからこそ、イイトコサガシ・ワークショップは、試す気持ちを育てる場に特化していきたい、と強く思った次第です。

イイトコサガシにおける「試す」の定義は
「他者評価を気にせず、新しい人、環境、価値観、ノウハウ、ジャンル、イベント、思想などに自らの意思で飛び込んで、その感覚を味わい尽くす」
ことです。

やってみなきゃわからないことってたくさんあるんです。
それに伴い、イイトコサガシの目標も変わりました。

「イイトコサガシ・ワークショップに参加したら成長しました」
というよりも、
「イイトコサガシに参加したら、色々な会に参加できるようになり、色々なジャンルに飛び込めるようになり、色々な人と自分らしいコミュニケーションを試せるようになりました」
という方向に変換したのです。

イイトコサガシはあくまで、
・自分らしさの探求
・自己表現
・他者交流
の土台構築を目指す場にした、ということです。
スキルやテクニックを身に着けたい人は、他の会に参加してくださいということです。

最後に。
試した時点で大成功・大成長!という価値観は、イイトコサガシ内部にも大きな安心感と高いハードルができたことをお伝えしておきます。

安心感とは?
今までは、自分たちがコミュニケーションを上手にしていかないと、まずは自分たちが成功できていないと、というプレッシャーが強くあったのですが、それがなくなりました。非常に伸び伸び、イイトコサガシ・ファシリテーションに臨めるようになったのです。

高いハードルとは?
試した時点で大成功・大成長!と繰り返している以上、イイトコサガシ・ファシリテーターが試していなかったら、本末転倒になってしまう、ということです。自らが率先して試す姿勢を参加者に示していくことが、必須となったのです。試しているかどうかは、意外と誰の目にもハッキリとわかってしまうものなのです。

冠地情(かんちじょう:本名)イイトコサガシ代表

 

──■ あとがき
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ビジョントレーニングIIの原案・監修者、北出勝也先生からご案内が2点あります。

・視機能トレーニングセンター ジョイビジョン京田辺 新規開設記念
『ビジョントレーニングセミナー』
3/20、京都府京田辺市、無料

・『子どもの教育・発達セミナー:「学力不振生徒」へのビジョントレーニング』
5/29、京都府京田辺市、3000円

お問い合わせは、ジョイビジョン京田辺(サポーツ京田辺内)まで。
(ホームページはこちら>>

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