「見る」機能と学習 最終回 支援の基本と留意点

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2015.05.01

「見る」機能と学習 最終回 支援の基本と留意点

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■ 連載:「見る」機能と学習 最終回 支援の基本と留意点
■ 連載:高次脳機能とそれをささえる脳の働き
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■ 連載:「見る」機能と学習 最終回 支援の基本と留意点:
トレーニングはやればいいというものではない
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これまで5回に渡って視覚に様々な問題を抱える子どもたちを紹介し、問題点の解決方法についても、簡単ですが紹介してきました。抱えている問題はそれぞれの子どもで異なるため、支援を始める前に、どこが問題なのか把握することが大切です。

以下に、視覚に関わる不都合を抱える子どもたちの発するサインをまとめ、列挙するので参考にしてください。

○ 視機能に問題を抱える子ども達のサイン
1.視力、屈折(近視、遠視、乱視)、ピント調節の問題に起因するもの
・ものを見ると疲れる
・眼を細めて見る
・頭痛がする、まぶしい、眼をこする
・近業をいやがる※1
・読書姿勢の異常(過度に近くないか?)
・根気が続かない 等

問題の存在が疑われる場合は、眼疾患の治療やメガネによる視力矯正が必要かについて眼科受診を勧める必要があります。
※1 読書やレゴブロックなど細かい物を見ることを嫌がることです。視力やピント調整機能が関与します。

2.注視、眼球運動の問題に起因するもの
・読んでいる場所を見失う、読みが遅い、同じところを読む
・読みの間に脱落、付けたし、置換が多い
・指を添えて字を読む
・書き写しが苦手
・動くものを目で追えない 等

これらは眼球運動が円滑ではない場合が多いようです。

3.眼位-輻輳(ふくそう)-両眼視機能(両眼のチームワーム) の問題に起因するもの
・ものが二つにぶれて見えていないか?
・ものを一つに見るのに疲れる、頭痛がする
・横目、斜めでものを見ていないか?
・片目つぶりをしていないか?
・遠近感の低下
・ボール遊びが苦手
・エスカレーターにスムーズに乗れない
・お遊戯でタイミングがとれない 等

学校検診等ですでに指摘されている場合も多いようですが、問題の存在が疑われる場合は、眼科受診を勧める必要があります。

4. 視知覚・認知不良 (形態・空間認知)の問題に起因するもの
・人の顔を覚えるのが苦手
・傾いた三角形、菱形など図形認識が苦手
・似たような漢字の区別ができない
・文字の模写が出来ない、 写し絵が苦手
・覚えた文字をなかなか想起できない
・文字の読み間違いが多い
・鏡文字がある
・数的概念・量的概念の理解が難しい
・対象の部分のみを見て、全体を把握できない

5. 目と手足の協応、身体バランス不良の問題に起因するもの
・はさみが上手に使えない
・鍵盤ハーモニカ、縦笛がうまく演奏できない
・蝶々結びがうまくできない
・ノートのマスに収まるように書けない
・文字列や文字間隔を揃えられない
・文字がなぞれない
・スキップが上手に出来ない。
・鉄棒や縄跳びが苦手
・球技が苦手

学校での対応が必要ですが、他の症状も勘案し発達に詳しい小児科医や作業療法士に相談することも大切です。

○ 視覚支援の進め方

1.眼科的問題の解決が大切
結膜炎、睫毛内反治療など
眼鏡処方、調節、両眼視への対処

2.まず視覚の初期トレーニング
注意・関心をコントロールする力を養成し、視野内情報から今必要な情報を取り出す図地分別力を養うことが目的です。

静止している対象物に視線を向け(視覚定位)注視を持続させる持続的注視と注視点を移行させる(Saccade)、動いている視対象を注視し続ける追視(Pursuit)、一定の視野内から必要な情報を探す視覚的探索(scanning)力をそれぞれ、1scale、2scaleおよびコラムサケードなど、線たどりやマースデンボールなど、ナンバータッチなどの方法でトレーニングします。

3.身体感覚・バランス・コントロール
バランスボードや原始反射に起因する連合運動の解除(前号で紹介)などを通し、左右手足のコントロール、身体バランス力を養成する。空間認識の基礎となる左右概念を確立し、感覚統合力の養成が目的です。

4.視覚認知
識別、図形構成理解に対する支援として、Parquetry Blocks※2、空間位置関係や恒常性理解の支援としてGeoBoard、「図と地」の識別力や視覚探索力の養成としてHidden Pictures※3、閉合力養成としてHalf'n Half※4などの教材があります。また、レデックス社から多くのVision Trainingソフトが発売されています。

※2 形の構成理解のため、ビジョンセラピーで取り入れている積み木教材の総称です。アメリカのBernell社が、このブロックを使ってセラピーブックを作ったのがはじまりです。(★詳細はこちら>>
※3 視覚認知の「図と地」の落ち込みがみられた子どもの自宅用の学習教材です。元々は米国のHighlightskids社からでているファンブックです。(★詳細はこちら>>
※4 「視覚形態完成(閉合)」課題に苦手さを持つ人に取り組んでもらう課題です。海外のものは手に入りにくく、日本では欠所補完(こぐま社)のものを使う場合が多いです。(★詳細はこちら>>

5.目手の協応
目からの情報と連動して的確に手を動かすには、空間的位置の把握と線を引くための手先をコントロールする両方の能力が必要です。手先の巧緻性の養成のために 紙クシャやBeads stacking※5など、運筆の改善のために、ミシガントラッキング※7や○Xレースなどの方法があります。また、knock knock※8から様々な支援ツールが発売されています。

※5 鉛筆が上手に持てない児童には三指の使い方が苦手なお子さんが多くいます。そのため、小さなビーズを積み上げる作業を通して、三指の練習をします。これをbeads stackingといいます。
※6 書字の苦手な子のための教材です。??△??などが複数並んだ物の中で例えば??だけ塗りつぶしてください。として、運筆の練習と探索練習をしてもらいます。
※7 大阪医科大学LDセンターとアットスクール社が共同開発した視覚支援教材シリーズの名称です。(★詳細はこちら>>

○ まとめ
視覚支援の目的は、対象児童生徒の自己評価を高めることです。支援の方法を間違えると効果がないどころか子ども達のSelf-Esteem(自己効力感)を傷つけることになりかねません。対象とする児童・生徒は視覚活用が上手にできないので支援の対象になっていることを忘れないようにしましょう。子どもたちが積極的に参加したくなる適切で楽しい支援プログラムをつくりましょう。

日々自分の勝手な思い込みを押付けていないか、子どもたちに不必要な負担を強いていないか、効果が見られているのか常に反省する謙虚な姿勢が信頼関係を作る上で大切です。

支援で最も大切なポイントは、対象とする児童・生徒と支援する先生の間の信頼関係であることを忘れてないでください。

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以上、日々の指導の一助になれば幸いです。また、かわばた眼科育視舎視覚発達支援センターのホームページも参照してください。
★ホームページはこちら>>

(川端秀仁・かわばた眼科院長)

 

■ 認知機能の発達、学びとその支援
第2回:高次脳機能とそれをささえる脳の働き
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前回、認知機能にさまざまなものがあり、それらが年齢と共に発達することを紹介しました。今回は、認知機能相互の関係についてです。

1.神経心理循環・高次脳機能

認知機能は脳に局在しますが、それらの位置とは関係なく神経ネットワークによって相互に関係しています。図1は、橋本圭司・国立成育医療研究センター医長が高次脳機能障害リハビリの基本的な考え方としている「神経心理循環」です。
図1:神経心理循環その1 (★図はこちら>>

記憶や注意といった一定以上のレベルの動物のもつ認知機能や、遂行機能や情報獲得力といった、ごく一部の高等な動物にしかない認知機能は総称して高次脳機能と呼ばれています。そして、それらは相互に密接な関係をもっており、リハビリに際しては損傷を受けた認知機能だけでなく、高次脳機能全体を支援することで、生活機能を高めることができるという考え方です。

橋本医師の担当した患者の一人に、北京パラリンピックの自転車競技で、金銀銅の3つのメダルを獲得した石井雅史さん※8がいます。競輪選手だった石井さんは交通事故によるけがで重度の記憶障害になり、一時はひきこもるような生活をしていました。それが、認知機能全体を支援するリハビリで、記憶障害自体は大きく改善しませんでしたが、他の認知機能、遂行機能や情報獲得力が高まったことで、生活に自信ができ、自転車にも再び乗るようになってパラリンピックでメダルを取るまでに回復したのです。

例えば、記憶障害で道に迷った場合、他の人に道を尋ねたり(情報獲得力)いったん出発点まで戻ったり、タクシーに乗ったり(遂行機能)することで記憶を補い、生活や社会機能が遂行できるようになったのです。

※8 橋本医師と石井さん出演の解説動画 (★動画はこちら>>

この考え方は、認知機能の一部に弱いところがある人にも応用でき、認知機能全般を高めることで、さまざまな問題を解決できるようになる可能性を示していると思います。

2.神経心理循環・高次脳機能を支える脳の働き
高次脳機能の他に、生命維持に密接な呼吸や運動など多くの脳の働きがあります。覚醒(起きている状態を維持する)もその一つで、TVドラマでときおり見かける病気や事故に遭った人が眠り続けるシーンはその象徴です。これらの基本的な脳の働きが十分でないと高次脳機能も働くことができません。
つまり、人間の活動を成り立たせるための脳の基本的な働きも、図2のように高次脳機能と深い関係を持っているのです。
図2:神経心理循環その2 (★図はこちら>>

米国で長く発達障害の子どもの支援をされている、カニングハム久子先生にお聞きしたエピソードを紹介します。

多動で困っていると相談に来られた日本人親子に、朝食に味噌汁を飲ませるように助言しただけで、多動が収まった事例があるそうです。

それまでのパンやドーナツだけの朝食と異なり、味噌汁にはたんぱく質が含まれています。カニングハム先生によれば、たんぱく質の分解・吸収にかかわる肝臓は、体内時計に関係しているそうです。朝食の時に肝臓が働くことで、一日が始まったという信号が脳に伝わり、脳が覚醒し、他の高次脳機能が働き始めます。それ以前の覚醒しきっていない状態と違って、授業の内容を理解できるようになって、いらいらが収まり、多動が収まったのではないかとの説明でした。

関連したことですが橋本医師は姿勢の大切さをよく言われます。姿勢をよくすることで呼吸がしっかりできるようになり、脳に酸素が十分にいきわたることがリハビリに有効だとのことです。

認知機能の発達には、食事や睡眠、姿勢や呼吸など、生活にかかわる部分の維持・改善が大切であることも覚えておいていただきたいと思います。

(五藤博義)

 

■ あとがき
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明日の土曜日から5月6日までお休みの方も多いのではないでしょうか?
ウォーキングなど運動にも取り組んで、脳をリフレッシュされてはいかがでしょうか?

次回のメルマガは5月15日です。
聴覚認知バランサーの発売は、その週の月曜日です。
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