「聞く」と「分かる」の関係:身体と聞こえ

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2014.05.16

「聞く」と「分かる」の関係:身体と聞こえ

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■ 連載:「聞く」と「分かる」の関係: 身体と聞こえ
■ 報告:篁一誠講演 自閉症の人への支援:生活場面のデザイン・2
■ 書籍:発達障害の子を育てる58のヒント
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■ 連載:「聞く」と「分かる」の関係
第3回 身体と聞こえ
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まったく聞こえない、あるいはまったく見えないというのはさぞかし大変なことだと想像してしまいます。しかし、われわれにとって「見ること、聞くこと」、「見えることや聞こえること」は必須なことなのでしょうか?

けがや病気で元々あった機能が失われると確かにその後に生活に適応することは、大変なことです。しかし、先天性の聾(ろう)や盲(もう)の方々は(もちろん不便もあるのでしょうが)われわれが想像しているほどには困っていない様にも見えます。

ずいぶん昔の話になりますが、日比谷でNGO/NPO団体の合同フェスタが開催されました。その時、わたしは難聴者支援の団体のブースにスタッフとして参加しました。何名かのろう者の方もお手伝いでボランティアとして参加してくださいました。手話のできない私は、彼らとコミュニケーションがとれ
ず、展示ブースを実際にどのように運営するかかなり心配だったのですが、手話を勉強中の看護師さんや言語聴覚士さんが通訳?をしてくれ何とかなりました。おかげで、われわれのブースには多くの聴覚障がい者の方が来場され、終日の賑わいとなりました。フェスタへの参加は大成功でしたから、その夜はおきまりの打ち上げ。健聴なわれわれも手話を使う彼らも皆でいっしょにガード下へと繰り出しました。

「聞こえないというのはさぞかし大変なことじゃないですか?」と私。

するとろうの彼はあっけらかんと

「(口話と手話を使いながら)そんなに困りませんよ。(居酒屋の周りの騒音を気にしながら話している私に向かって)あなたこそ耳ばかりに頼って聞き取りにくそうに見えますよ。それに手話を使うわれわれから見れば、(音声言語の)日本語の表現の乏しさに不便を感じないのでしょうか?」

と逆に聞き返されてしまいました。

「聞こえないことは、聴えないことと同じじゃないよ。」

彼の言いたいことの核心をその時、私は理解することができませんでした。

前回のメルマガでもお話ししたように「聞くこと」と「見ること」はそれぞれの役割をもっています。目は「どこ」と「なに」を認識するために働き、耳は「いつ」と「どんな」を理解するために機能します。しかし実際には「どこ・なに」と「いつ・どんな」がくっきりと区別されているわけでもなく、人それぞれの育ちや学びの差異によってその割合はずいぶんと個性があります。

生まれつき耳がまったく聞こえないろう者の人が「どこ・なに」をまったく把握できないというわけではありません。イルカやコウモリは、見えなくてもバランス機能や運動機能にまったく問題ありません。クリック音や超音波を使ったエコーロケーションという能力で、目が見えなくても彼らは空間的な情報を手に入れます。人も自分の足音の反響音を手がかりに、見えてはいない目の前の扉や壁の存在を悟ることができますし、楽譜は書けなくても音符を脳の中の空間に上手に並べることで演奏や作曲することができます。

耳が聞こえない人の色彩感覚やデザインスケッチにおけるテクスチャの表現力にわれわれ健聴者は時折驚かされます。

五感のどれかに欠落があるように見えて、その実その欠落は新しい別な能力を生み出すようです。

われわれの「見る」と「聞く」をそんなふうに補ってくれるのは脳のどういった働きによるのでしょうか。

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胎児の時からフルに稼働し、多彩な情報をキャッチしているのが「聴覚」です。聴器は妊娠3ヶ月のころにはすでに出来上がっています。

一方、お母さんのお腹の中にいるとき、視覚はまだまだ。それどころか、出産後も最初は0.01くらいの視力しかないのです。ぼんやりとした明暗くらいしか識別できない視力です。生後6ヶ月にもなれば0.1くらい。そうして1歳でやっと1.0くらいになります。目の発達がこんなふうにゆっくりとしたペースであるのにたいして、聴覚はま逆です。

生まれてすぐはフルレンジな聞き取りなのが「価値がない・使わない・意味がない」のいずれかの条件によって、次々に脳は音に反応しない脳へと変化して行きます。文化や生活や環境が、ある種の音に対する調節能力を作り上げます。この機能は「聴覚フィルター」と呼ばれています(フィルターとは言いますが、私は「聴覚フィルター」は耳におけるカメラの「絞りと露出」のような機能であると考えています)。

さて、目が発達しながらディテールを拾い出す能力を高めていく時期、耳はフルレンジから可変型の聴覚フィルターで母語に特化した耳へと育っていき
ます。耳は瞬時にいらない音を脳内のごみ箱に捨ててしまいます。目が写真記憶と揶揄されるように視界の中の情報すべてをひとまず記憶してしまうの
とは大違いです。この相反するかに見える異なる発達プロセスをとる2つの感覚が「なにかの力によって」もっともタイトな結合を構築していきます。

「なにかの力」

それは「聴覚と触覚」のつながりと「視覚と運動器」の接続から生み出されるものです。ヒトにおいて、運動覚と触覚は必然的に最初から密接なつながりをもっています。聴覚と視覚がそれぞれに触覚と運動覚と連動することで、われわれは視聴覚をひとつのまとまった情報処理系のように活用することが
できるようになるのです。生まれてすぐの段階からの身体機能・運動能力の発達は、その後の言語の発達や視聴覚統合といったヒトならではの機能を研ぎ澄ますために最初に獲得しなければならない機能なのです。

音楽家にするとかしないとかの議論をする以前の問題として、言語を自在に操れる子どもに育てるためには、乳幼児期において、リトミック、ピアノ、バイオリン、クラシックバレエといった身体と音に関わるお稽古事をさせることが大切なのはそうした理由からなのです。

「うちは子どもをダンサーやアーティストにするつもりはないから」とそうした学習体験をさせないことは実はとってももったいないことなのです。

(中川雅文・国際医療福祉大学教授、同大学病院耳鼻科部長)

 

■ 報告:篁一誠講演 自閉症の人への支援:生活場面のデザイン・2
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東京都自閉症協会が2014年2月17日に実施した、篁一誠先生の講演会レポートの前回の続きです。

[3]遊び方の工夫と道具の考え方

1.独特の遊び 2.模倣行動の確立
自閉症の子はひとつのことをやるようになると、延々と同じ遊びを繰り返します。通常の子が2~3週間で飽きることを、2~3年も続けることがあります。

また、自閉症の子は自分一人で遊ぶことが好きです。それでよいと思われる方もいらっしゃるでしょうけれど、一人遊びに欠けている要素があります。
それが、模倣です。

学びとは、大人の人が社会でやっていることをできるようになることということができます。それには、他の人の様子を観察し、まねることができるということが重要な要素になります。誰かと一緒に遊ぶことは、その子がやっていることを自分もやりたいと思うきっかけになるのです。

なかなか、新しいことに関心を示さない自閉症の子に、他の人のやっていることをできるようになりたい(まねしたい)と思わせるようにするには工夫と根気が必要です。そんな実践例を紹介していただきました。

プラモデルに関心を持たせたい、と考えたお父さんは、大型のプラモデルを購入して、子どもがいる時だけ作る、ということを続けました。まったく反応を示さなかった子どもも2か月経つとやっていることを熱心に見るようになりました。そこで、プラモデルの部品を切り離す役を子どもに与え、子どもが切り離したものだけを組み立てる、という形で、プラモデルを作っていきました。するとだんだん、子どもは他の作業にも関心を示すようになり、少しずつ、子どもができることを増やしていくことができたそうです。

自閉症の子を、模倣ができるようにすることは大切であり、こういった努力をすることが、子どもの成長につながるとのことでした。

3.遊具の管理
篁先生が提案されたのは、「1か月ローテーション」と、「2時間遊んでのかたづけ」です。飽きない程度に、おもちゃを使い続けることで、遊び方が深まります。また、遊んだ後に必ずかたづけをすることは「かたづけの練習」になります。これも社会参加の中で必要になる技術の習得につながります。

もう一つ大切なことは、「終わり方」を教えることです。例えば、始める前に「時計の針がここまでいったら終わります」というルールにします。このことは、「他からの働きかけで行動する」ことから、「自分で時計を見て、行動を決める」ことができるようになります。

[4]家事への参加
1.10歳の夏休みから10年計画で家事を覚える
2.10歳で始める意味

仕事は「やりとおす」ことが大切です。ですから、それができる体格と体力が備わる10歳まで待って取り組みを始め、やりとおせる内容を計画的に、だんだん高度化していきます。

まず大切なのは意識づけです。10歳の夏休みの半年前から、「夏休みになったら一緒に仕事をします」と折にふれて予告します。また仕事を始めた後も、前の晩に翌日の仕事の予告をします。例えば「明日は朝ごはんの準備とかたづけを一緒にします。あなたはごはんのもりつけをします。食べ終わっ
たら食器を洗います」といった具合で、何をするか、どれほどの量の仕事をするか、見通しを立てさせるようにします。

次に、仕事のやり方を「分かるように、具体的に」伝えます。
例えば、掃除機のかけ方を教える方法です。穴あけパンチでできた小さな円形の紙を部屋にまき、それを吸い取ってもらいます。円形の紙が「なくなる」=「きれい」というように、きれいにする、という抽象的なことばの意味を具体的に理解してもらえるように工夫します。

家事をすることは、他の点でも効果があります。
料理をすると、食材が変化していく様子を見ることができ、見た目が偏食の原因になっていた場合は、改善が期待できます。

3.働く意識の基礎づくり
4.人を意識して生きていく

自閉症の人は、自分の好きなことをする人です。ですが、社会では「人に言われたことをする」ことが求められます。10歳までは、人にしてもらうばかりでしたが、少しずつ、「人のために自分の時間を使う」ことを覚えていくようにします。

社会では、知的障害のある人の方が長く仕事を続けられ、高機能の自閉症の人の方が続かないという例が多いようです。

例えば、毎週水曜日は全員が残業する、という決まりの町工場に勤め、上司がどう説得しても、定時で帰ってしまうというケースです。就職前から、水
曜日に必ず見るテレビ番組があり、それを見るために、説得に応じなかったのです。

こういうこだわりタイプ以外に、単調な仕事を長く続けることができない、上司のいうやり方でなく自分で考えたやり方でやってしまう、というケースもあります。

家事への取り組みを通して、仕事に対する意識や、他の人のことを考慮する、という姿勢を身につけてもらうようにします。

(報告:五藤博義)

 

■ 書籍:発達障害の子を育てる58のヒント
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メルマガのグッズや書籍レビューの常連、小林さんのご著書が発刊されました。レビューと同じくご自分の経験を元に、先輩ママとしてのアドバイスを58のヒントとしてまとめてくださいました。親として、まいったなー、しんどいなー、という時にこの本を手にとって、パラパラと読むとほっと一息つけるのではないでしょうか?

この本を一言で説明していると思わされるのが「はじめに」に書いてある次の文です。

(略)私自身も発達障害のある子どもを育て、いろいろと回り道や失敗を重きた結果、子どもとの関係をスムーズにしてくれる”コツ”のようなものがあることがわかってきました。何に注意して、どう立ち回るといいコトがあるのか、園、学校、療育施設、家庭それぞれでのポイントを、私が気づき考えついた範囲でまとめてみたのがこの本です。

また読者のみなさんに、より本の内容をイメージしていただけるのでは、と各章の中でもっとも興味深い項をいくつか挙げてみます。

第1章 乳幼児期の「もしかして」を大切に
「様子を見る」は「何もしない」と同じこと
好きでパニックになる子はいない

第2章 学校や幼稚園・保育園とのかかわり
「今日の”困った”」を必ず教えてもらう
これならできる!を知っておくこと

第3章 療育の効果を追求する
療育の成果が出るのはいつ?

第4章 発達障害の診断をどう考えるか
発達障害の専門医にかかる必要はある?

第5章 子どもへのかかわり方
同じことで叱った時に保護者がやること
感覚過敏を理解する

第6章 保護者が子どものためにできること
自宅は”賃貸”がベター
保護者にもクールダウンが必要

最後の部分には、手作りして使ってみたら効果があった!という子ども支援ツールが5種類、紹介されていて、参考になります。
例)学校から帰ってきたらやることカード、子どもの「説明書」、他

発達障害の子を育てる58のヒント 小林みやび著
2014年4月発行、学研教育出版、四六版、144ページ、1512円(税込)
★詳細はこちら>>

 

■ あとがき
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サッカーW杯代表が発表されました。実績を出し続けている大久保選手が選ばれて、子どもたちの学びのためにも、よかったと思っています。

次回メルマガは、5月30日(金)の予定です。

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