ベンとふしぎな青いびん -ぼくはアスペルガー症候群-

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2014.02.28

ベンとふしぎな青いびん -ぼくはアスペルガー症候群-

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■ 連載:「伝わる実感」を「伝えたい」意欲へ・2
■ 連載:アメリカでの療育における専門士の役割・3
■ 書籍: ベンとふしぎな青いびん-ぼくはアスペルガー症候群
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■ 連載:賞子先生の「魔法のアプリ」 第10回
「伝わる実感」を「伝えたい」意欲へ・2

「読む」「聞く」は意欲的に取り組めるのに、自分からの発信が極端に少なかったAさんのお話の続きです。

1. 自分の考えをまとめる活動 → 思いを見つめる・見つける・深める

前回はマインドマップアプリを使って考えを整理していく所までをご紹介しました。今回は、容易な入力方法でテキスト化できる、メモアプリについてお話ししたいと思います。

○ 7notes for iPad
★iTunes App Storeの詳細はこちら>>

私はメモアプリを割とよく使います。以前に辞典代わりに使った事例を紹介しましたが、メモアプリは「予測変換」がとてもいいので、文章入力の負荷がぐんと下がります。

→ メルマガ No.78 井上先生連載第2回 辞書アプリを使って「自分で解決できる」を支えよう・2
★バックナンバーはこちら>>

特に 7notesは、「直接入力→書いたものをそのまま画像として入力できる」「手書き入力→手書きしたものをテキストに変換して入力できる」「キーボード入力→キーボードを表示させてボタンを選んで行くことで入力できる」「音声入力」という4つの方法が選べるため、子どもの状況に合わせて使いやすいと感じています。

また、「手書き」の認識がとても良く、書き順が違ったり文字が多少歪んでいたりしても正しく変換してくれます。うまく変換しない時も「この字かもしれません」という候補が各文字の上のボタンで出てきて選べるようになっています。Aさんは書字にかなり苦手さがありますので、これらの機能はとてもありがたかったです。

色々試した後、Aさんは、「手書き入力」と「キーボード入力」を組み合わせて使うようになりました。

普段はキーを探さなくてもいい「手書き」を好みますが、自分の字を思うように変換してくれないことが続くと、確実な「キーボード」に切り替える様子が見られました。

1つしか方法がないと、それがうまくいかなくなるとシャッターが降りてしまうように見通しが持てなくなってしまうことがあります。複数の方法があることで、「じゃあこちらを使おう」「こちらを試してみようかな」と思える気持ちの余裕が支えられるように感じました。こうした「選択肢の多様さ」は、機器を使っている時に感じる大きなメリットの1つですね。

吃音があるため音声入力は難しいだろうということは予測がついていましたが、書字の苦手さがある子なので、マインドマップでも使っていた「50音キーボード」を選ぶと思っていました。それが手書きをまず選んで使ったのは意外でした。ですが見ていると、キーボードで探すよりも書き込んだ方が早く入力でき、多少字が崩れていてもきちんと変換してくれる、このアプリの「手書き」は、入力という一手間を感じさせず「思ったことを書き表す」方法になっていたようでした。

このメモアプリを使うようになって、Aさんはそれまで全くしなかった「推敲」を始めました。自分で読み返して接続詞を補ったり、表記の間違いを直したり、詳しくするために書き加えたりといった作業を、1人でやれるようになっていったのです。

思えば、もともと本が好きな子で、たくさんのお話を読んでいました。理解力も高い子です。「推敲」の力があるというのは、ある意味当たり前のことでした。しかし、1年生の時から担任していて、私はそれに気づけずにいました。

そこには、彼女の「書字の困難」が大きく関わっていたと感じています。なかなか形の整った文字を書くことができず、マスがある用紙でも、どこに何を書いたのかわからない状態でした。自分の考えを簡単にテキスト化できる方法を得たことで、Aさんはやっと「自分の文章を読み返す」ことができたのだと思います。

また、自分で読み返すだけではなく、VoiceOverの機能を使って読み上げさせてみて、それを聞きながら文字を目で追って「あっここおかしい」「これがあったほうがいいかな」と気づいて手直ししていくこともありました。iPadが表記の間違いをそのまま読み上げるのを聞き、「ふふふ、へんなの!」と言いながら、にこにこ直していきました。

導入から半年もたたないうちに、Aさんは、マインドマップアプリで作ったメモと、7notesを切り替えて表示させながら1人で作文を書いていくようになりました。以前なら1行書くのにもかなりの時間がかかっていた行事の感想も、原稿用紙1枚程度の量ならすらすらとまとめていく姿に、「手だて」を得ることの大切さを痛感しました。彼女の中には、ずっとこの力があったのにと思うと、今も申し訳ない思いでいっぱいになります。

次回は、私がさらに「反省」させられた、彼女との「思いの交流」に使ったアプリを紹介させていただきます。
(井上賞子・安来市立赤江小学校)

 

■ 連載:ボストンからの発達障害レポート 第8回
-アメリカでの療育における専門士の役割 No.3
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No.1、No.2と、米国における学校内で受けられる主な専門セラピーについてお話してきました。最終回である今回は、一風変わったセラピーについてお
話ししたいと思います。

米国では障がい児教育に関わらず、セラピーというものに対しての垣根が非常に低く、また「家族としての幸せ」「会社にとっての利益」など、自分が所属するコミュニティとは別に、「個人の幸せ/個人の意思」を重要視します。そのため、セラピーを受けることで個人の QOL (Quality Of Life = 生活の質)が上がるのならば、専門家に会った方がいいという考えを持つ人が大勢います。いろんな分野のセラピストがいて、自分の心の内側を知り、ありのままの自分を肯定し、表現するということを教えてくれます。

余談ですが、私の住んでいるマサチューセッツ州ボストンは、米国でも、世界でも有名な大学が集まっており研究機関、医療機関も多いことから、地下鉄の広告に「自分の容姿に自信のない人」「幼少期にトラウマがある人」「感情がコントロールできない人」「やる気が起きない人」「身の回りの整理整頓が苦手な人」「考えがまとまらない人」など、様々な状況に訴えるセラピーの案内広告や、治験協力を願う広告がよく見られます。

私が通っていた大学院には、Expressive Therapy(表現セラピー)学科があり、さらにMusic Therapy(音楽療法)、Art Therapy(アート療法)、Dance Therapy(ダンス療法)と、3つの専科がありました。

その中でも、Music Therapyは学校現場でもよく取り入れられているものです。音楽的な技術要素や歴史を学ぶのではなく、「音楽を使って自分を表現することを楽しむ」ことを一番の目的とします。一曲の中でも音量、スピード、音調、リズムを変えたりしながら、歌ったり身振りをつけたりします。

障がいを持っていても音楽が大好きな子は大勢いますし、特性によって音感やリズムに非常に敏感な子もいます。

技術的向上を求められ、成績という結果を必要とする通常の音楽の授業よりも、Music Therapyの方が、場合によっては障がいを持つ子には音楽に慣れ親しみ、楽しみ、そこから学びにつながる事も多いかもしれません。

その他に、私が学校見学に行った先で面白いなと思ったものが、アニマルセラピーです。よくしつけされ、人に慣れているシーズー犬だったのですが、
ジャーキーのにおいをつけておいたマイクの前に座らせながらバックで朗読音声を流すと、まるでその犬が本を読んでいるようで、生徒たちは目を輝かせながら、物語を聞いていました。

そのセラピストによると、自然や動物に触れることで得られる安堵感やリラックス効果というものは、科学や実験の数字だけでは語れないような不思議な力を持っているもので、万人に通じる感覚、感情なのではないかとのことでした。発達障害を抱える子供達は感情を表現することが苦手な子も多いので、動物に触れ合うことで学べることも多いのではないか、ということでした。

また、普段とは異なるシチュエーションでの読書や朗読で、子供たちの読書に対する苦手意識が変わることも多いし、語彙の発達や記憶力の向上にも役
に立つそうです。

このような一風変わったセラピーが受けられて、それを月に一度のお楽しみにできたら、子供たちも学校生活が充実できるだろうなと感じました。

3回に分けてお送りした米国での専門セラピーの様子はお楽しみいただけたでしょうか。今後も、有意義なレポートをお送りできる様に努めたいと思います。
(礒恵美)

 

■ 書籍: ベンとふしぎな青いびん-ぼくはアスペルガー症候群
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この本は、おそらく小学校2年生くらいから読めるのではないかと思います。
主人公は“ベン”というアスペルガー症候群の男の子。物語は学校でベンが先生に怒られるシーンからスタートします。

怒られている理由がわからないベン。
比喩が理解できないベン。
大筋とはかけ離れたところで、細かいことが気になるベン。
そのひとつひとつが先生をいらだたせてしまいます。

あるある、と思うと同時に、ベンの混乱が痛いほどに伝わってきて、アスペルガーのお子さんが身近にいる方にとってはいたたまれない気持ちになることでしょう。

この本は、ベンの困難、お医者さんによる診断、家族の葛藤、そしてベンの成長が描かれた物語。「青いびん」の不思議さが、ストーリーを子どもにも楽しめるものにしています。

「ベンには助けが必要なんだ」
ベンのお父さんがそう気づけるまでにはやはり時間がかかりました。
親としての愛情だけでなく、「理解」が必要なのだと改めて感じます。

保護者の方が子どもの気持ちを知りたくて読むのもいいですが、そろそろ本人に告知を、と考えている方がお子さんに読ませるのにもいい本だと思います。いろいろとうまくいきすぎな感もありますが、よくあるアスペルガーの解説書を読むよりもずっと、自分を肯定的に理解する手助けをしてくれるはずです。

ベンにはいつもそばにいて、理解してくれるアンディという友だちがいます。
アスペルガー症候群の子どもは人間関係を構築するのが苦手と言われていますが、どの子にもいつかアンディのような友だちができることを願ってやみません。

アスペルガー症候群だけでなく、発達障害を持つ子どもに関わるすべての人たちに読んで欲しい一冊です

ベンとふしぎな青いびん-ぼくはアスペルガー症候群
キャシー・フープマン著、代田亜香子訳、木村桂子絵、
2003年2月発行、あかね書房、A5変型判、145ページ、1300円(税別)
★Amazonの詳細はこちら>>
(小林 雅子)

 

■ あとがき
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世界自閉症啓発デーが近づき、さまざまなイベントが各地で計画されています。おいおい注目イベントを紹介していきますが、まず、3月9日にさいたま市で開催される「こどもたちは、オヤジのチカラを待っている。」のご紹介です。

目玉はなんといっても、東田直樹さんとお母さんの美樹さんの講演です。たくさんの書籍を出版するなど高い能力をもつ直樹さんは、話し言葉での会話はできません。かつて(今も多くはそうですが)言葉が話せない、というだけで、知的能力が低いと判断されてきました。直樹さんは、言葉を話すのは人間の能力の限られた一つで、他にもさまざまな能力があり、それらを使うことで、社会に貢献できることを証明した先駆者といえるでしょう。
また、そんな子どもの発達を助け、見事に開花させた美樹さんの取り組みは多様な子をもつ親にとって、励まされ、参考になる存在といえるでしょう。

→ メルマガ No.76 自閉症の僕が跳びはねる理由
★バックナンバーはこちら>>

筆者も体験コーナーを設け、来場の方々と交流したいと思います。他にも数多くの催しが行われます。お時間がとれる方は埼玉県障害者交流センターに
ぜひ、お越しください。

○イベント「こどもたちは、オヤジのチカラを待っている」(イベントは終了しております)
★詳細(おやじりんくサイト)はこちら>>


次回メルマガは、3月14日(金)です。

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