篁一誠先生講演「自閉症児に教える時に配慮すること」

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2013.11.08

篁一誠先生講演「自閉症児に教える時に配慮すること」

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■ 報告:篁一誠先生講演「自閉症児に教える時に配慮すること」
■ 連載:単語帳アプリを使って「漢字と読みの一致」を支えよう・2
■ グッズレビュー:(いわいさんちの)どっちが? 絵本
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■ 報告:篁一誠先生講演「自閉症児に教える時に配慮すること」・1
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10月28日に東京・吉祥寺で行われたNPO法人東京都自閉症協会主催の講演会レポートです。篁一誠(たかむらいっせい)先生は、臨床心理士として、40年以上、自閉症児者とかかわってこられました。自閉症の人は自分のこだわることだけを好むので、それ以外のことを「教える」ことはよくない、とされた時代が長く続いたそうです。そんな中で、自閉症の人に社会で生きていくのに必要なことを教えようと試行錯誤を続けてこられたそうです。その経験から「自閉症の人に学んでもらうために必要なこと」のエッセンスをお話しいただきました。私にとってかなり新鮮な内容でしたので、3回に分けて報告させていただきます。

1.教える内容
表題の最初が「子どもの興味あること、得意なことを"選ばない"」です。意外に思いましたが理由を聞けば、納得です。興味あることはすでに独学で学んでおり、それについて他人に口出しされることを自閉症の子どもは抵抗を示すからです。篁先生が最初に自閉症の子ども(以下、子どもあるいは子と記載します)を担当された頃は、それが逆であることが必須だったとのことですから、如何に先生が卓見されていたかを示しています。

では、何を教えるか、というポイントは以下の通りです。
「初めてのこと、新しいこと」
「目と手を使うことから始める」
「簡単にできることを選ぶ」
そして、それをすることの「必要性を感じてもらうように工夫する」とのことです。

また、言葉の理解に困難をもつ子には、言葉は少なく、分かりやすい課題を選ぶのが必要とのことです。もちろん、それに取り組むことが、将来のその子の社会への適応につながることを見通す必要があります。

講演では具体的にはレゴブロックやお金の使い方の話などが出ましたが、それらは割愛させていただきます。

特に参考になった点を取り上げると「形容詞や副詞を使わない」ことです。
子どもたちは「程度」の感覚や、「基準」を理解するのが難しいそうです。
ただし、ほめる時には逆に、形容詞や副詞を使います。やることがはっきり分かり、ほめられるというポジティブな状況で使われることで、形容詞や副詞への関心を生み出すことができます。

2.教える時期
この視点も私には目からうろこでした。子どもたちは普通の子に比べて敏感で、温度が変化し、着るものなど生活が変化する6月や10月は避けるべきとのことでした。新しいことを学び始めるには、7月や11月が適しているとのことでした。

また、教える子の年齢を十分に考慮して、簡単にできるものから始め、子どもの状況によって同じパターンを基本に、少しずつ変化を加えながら進めていくとのことでした。

典型的な例が、ひらがなの書きの指導です。大人の目からは何から始めても同じように思ってしまいますが、「つくし」のように、ひと筆(一画)で書けるものから始めれば、覚えやすいとのことです。一画から二画と進め、最後にもっとも難しい「あゆむ」を教えます。

また、何かを書かせるなら、実際に身の回りにあるもので学ばせなければならないとのことです。例えば、カタカナの練習をするなら、トマトとか、クレヨンなど、実際にカタカナで表記されるものを課題にする必要があります。

私が学んできた学習科学に「本物性」Authenticity という概念があります。
学ぶことの必要性を感じさせるために、また、学んだことを実際に身につかせるためには、それを使う状況を与えるべきという考え方です。

先生は、「どうやって使わせるか」を考えるべきとおっしゃいます。それを学びたいと思わせる文脈を考え出すことが大切です。さらに、一つのことができれば、他のこともできるようになりたいと思う正の連鎖になります。
たくさんの研究者が長年研究し、ようやく見つけ出した「学び」を実現する条件を、先生は経験の中から見つけ出し、実践の中でずっと活用してこられているのです。

先生は自閉症を、ことばや社会性の障害ではなく、意欲の障害だとおっしゃいます。必要と感じることが少ないために、努力をしないという訳です。一例を挙げれば、体育の時間に早く走れない子どもが、いやなことをしたくない時にすごい速さで逃げ出すことがあります。「できない」のではなく、その必要性を感じていないだけだというのです。自閉症に限らず、すべての子どもたちに自ら学ぼうとさせることが、教育に携わる人間が、まず考えなければならないことだと改めて感じさせられました。

まだ、レポートは続きますが、ここまで読まれて関心を持たれた方のために先生の著書を紹介させていただきます。

「自閉症の人の自立への力を育てる」 篁一誠著、東京都自閉症協会編
A5版190ページ、ぶどう社、2000円(税別)
★詳細はこちら>>

(文責:五藤博義)

 

■ 連載:賞子先生の「魔法のアプリ」 第4回
単語帳アプリを使って「漢字と読みの一致」を支えよう・2
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今回は、新出漢字*1 を単語帳アプリで学習していくことが定着し始めたA君の「音読*2 への取り組み」です。
*1 それぞれの学年になって新しく学ぶ漢字
*2 声に出して読むこと

i暗記を活用して新出漢字の読みの定着が進んだA君ですが、それ以前の学年で学んだ漢字の「読み」は、落としたままです。「時計」「聞く」といった平易な熟語も読めない状態では、なかなか内容の理解に至りません。それまではルビをふるなどしてきましたが、どうしても漢字の部分でひっかかってしまっていました。

当時A君は5年生です。「低学年の漢字からi暗記をつかってやり直していく」ということも考えましたが、「学んだもの」→「使う中で定着」と、機会をしっかり保障したかったことと、彼の高学年としてのプライドも考えて、5年生の教材に出てくる熟語を通じての学習を進めていきました。

○具体的な手順は以下の通りです。
・新出漢字をドリルを見ながらカードにしていく→ここまでは前回紹介

・新しい単元を全文音読

・読めなかった熟語を全てカードにしていく

・家庭学習で、カード練習に取り組む。

・カード練習後、その単元の音読に取り組む。

ある物語単元では、最初52個の熟語が読めませんでした。しかし「カード作成」の後に「カード練習+音読」の組み合わせでの家庭学習を行った結果、5日後には全文音読の中で読めない熟語は5つに減り、2週間後には0になりました。熟語をカード練習で確認した後、文章の中でその熟語を読んでいくというプロセスが、A君には合っていたようです。

また、このケースでは漢字の読みがフォローされることで、音読全体の流暢性が上がりました。漢字が読めても文章として音読していくことが難しい子もいますが、A君の場合は、漢字の読みが音読や読解の大きなネックになっていたようでした。流暢に読めることで、内容の理解も高まっていきました。

その後、新単元に入る前に全文音読をしてカード化していくところまでを個別でフォローしておくことで、A君は通常学級での一斉指導での国語の学習が可能になっていきました。学習全体の適応も上がり、6年生からは通常学級へ籍を戻して、みんなの中で学習しています。

A君のケースでは、「読み」についても「書き」についても、iPadを使った支援がとても有効でした。彼はiPadを使って学習する中で、「どう学べばいいのか」を体感していったように思えます。iPadを使って見えてきた方法を、彼はiPadが使えない場面でも上手に活用しています。A君にとってiPadは、本来持っている力を発揮するきっかけや入口につながる、補助輪のような役割をしてきたのだと感じています。

たくさんある単語帳アプリからどうしてi暗記を選択したのか、他にどんな単語帳アプリがあるのかあたりについては、次回に紹介したいと思います。

※A君の変化の詳細につきましては、
魔法のプロジェクトの成果報告会公開資料、赤江小学校、25年ふでばこのファイルにあります、B児のケースをご参照ください。
★詳細のPDFはこちら>>

(井上賞子・安来市立赤江小学校)

 

■ グッズレビュー:(いわいさんちの)どっちが? 絵本
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子どもに様々な学びをさせる教室を大阪で行っている、未来奈緒美さんから推薦された3種類の絵本です。

3冊とも、2つの絵を見比べて違いを見つけ、その違いをどのように判断するかを子どもに問うことで、様々な学びの場面ができ上がります。

『どっちがへん?』『どっちがピンチ?』『どっちがどっち?』

なんだか、楽しそうですね。どんな使い方ができるのか、グッズレビューのページを開いて、未来さんの解説をぜひご覧ください。

ヴァラエティカフェ・グッズレビューはこちら>>
(レヴュアー: 未来 奈緒美)

 

■ あとがき
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最近は興味深い講演やシンポジウムが目白押しで、メルマガでのレポートが間に合わない状況です。数多くの興味深い講演の中で、今回は、自閉症児に対する教育に、長年取り組まれている篁一誠先生の講演を取り上げました。

篁先生の講演は、来年2月17日午後1時30分から「生活場面のデザインについて」と題して東京都江東区文化センターで行われます。東京都自閉症協会の会員は無料、非会員は1000円です。興味を持たれた方は参加されることをお勧めします。

次回メルマガは11月22日(金)です。

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