ビジョントレーニングってどうなの?

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2012.12.14

ビジョントレーニングってどうなの?

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■ 連載:ビジョントレーニングという新しい可能性 第1回
■ 報告:カニングハム・久子先生講演「様々な学習障害の理解と対応」2
■ グッズレポート:「ウェザーステーション」
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■ 連載:ビジョントレーニングってどうなの? 第1回
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はじめまして、北出勝也と申します。米国でオプトメトリスト(検眼士)という資格を取得し、13年前に帰国いたしました。私の実家は眼鏡店を神戸で営んでおり、そちらに勤務しながら、店の2階にある視機能トレーニングセンターJoyvisionというところで代表を務めております。主に読み書きでつまずいていらっしゃるお子さんの視覚機能の検査、指導などを行っています。この視覚機能のトレーニングのことをビジョントレーニングというのですが、ビジョントレーニングの普及講演活動なども、主に教育現場の先生を対象に行っております。

私のところに就学前に検査に来られたお子さんです。チェロを習っていたのですが、音符を読むのが難しいということがありました。かかりつけの小児科のお医者さんには字を読んだり、書いたりすることは今後も難しいでしょうと言われていたそうです。

ビジョントレーニングで眼を動かす練習などを始めて、1年ほどで全国大会のチェロの低学年の部門で3位に入賞されました。読み書きも不自由なく学校で出来ているとのことです。このお子さんは眼球運動の力と視覚認知の力(文字の形などを認知する)に問題がありました。それらの力を高める簡単なトレーニングをご家庭で行っていただいたのです。このような具体的な成果を学校現場の先生からもお聞きするということも増えてきまして、大変嬉しく思っています。

読み書きで困っている児童の中には、デコーディング(文字を音に変換するプロセス)に問題がある場合と、眼球運動において問題がある場合の2種類の問題の可能性があります。どちらにも問題があるということもあるでしょう。どこに問題があるのかを見極め、その児童にとって必要なトレーニングを行っていくことが大事です。

デコーディングに問題がある場合、文字と音のつながりを強めるトレーニングを行っていきます。視覚と聴覚の刺激を同時に行うトレーニングも一つの方法です。文字を掲示し、見せると同時に、その文字の音を聞かせるようなトレーニングです。

デイジー※のような、物語の文章をハイライトした部分の読み音声が出るソフトが読み障害のある児童に有効であることもあり、文字と音とのつながりを高めると考えられます。
※編者注)デイジーとは?

レデックス社で制作していただいた新しいビジョントレーニングのソフト、ビジョントレーニングII ですが、眼で視標の文字を追うことだけでなく、文字の音声も聞かせて、文字と音とのつながりを高めるように工夫をされています。

眼球運動に問題がある場合、眼の動きで文字をスムーズに追っていけないということがあります。読み障害のある児童の眼球運動を健常児童の眼球運動と比較したところ、有意に低かったという研究(奥村智人他、2006年「読み困難児における衝動性眼球運動の検討」脳と発達誌 No.38 p347~352)があります。眼の動きを上手くコントロールする力が十分に発達していないということです。

滋賀県の発達小児外来で発達障害を疑われる児童139名の眼球運動を調べたところ、32.4%に眼球運動の問題が認められ、20.1%に輻輳性眼球運動(近くを見るときに両眼を寄せる眼球運動)に問題が見られました。発達障害を疑われる児童の約半数に眼球運動の問題が見られたということです。(三浦朋子他、2008年 日本LD学会第17回大会論文集:p322-323)

眼球運動をコントロールする指令塔は脳の中の前頭葉にあります。眼球を左右、上下、斜めに自由自在に動かすことは6歳前後である程度はできるようになってくるのですが、脳機能の発達の遅れ、眼を動かしてものを見る機会が少ないことなどが原因で能力が育ちにくいことがあります。その場合、眼が動きにくいので、顔や体全体を動かしながら本を読もうとしていたり、板書をしようとしていたり、ものを探そうとしていることがあります。

眼球運動が苦手な人の場合、一文字は読めても文章になると、読みがたどたどしくなる、行の読み飛ばしをしてしまうなどのことが起こります。また鉛筆の先をしっかり眼で追うことができないことで書字が雑になってしまったり、マスからはみ出てしまうということもあります。黒板の文字が上手く書き写せないということで先生に叱責されるので、勉強する気を失ってしまうこともあるのです。

指先の運動が苦手であるだけでも不器用と言われてしまいますが、眼球運動の問題も合わせ持っていますとさらに問題が悪化してしまいます。ボールの動きを眼で追って、キャッチするということも苦手になってしまいますので、球技なども苦手です。先生の指示しているところに素早く眼を向けるというが難しいために指示が通りにくいと思われてしまうこともあります。

視覚機能の検査を行える機関というのは日本では大変少ないのですが、発達障害や学習障害が疑われるお子さんに眼球運動が上手くできていないのではないかという視点もお持ちいただき、検査も簡単に行うことが出来ますので、やっていただきたいと希望しております。

鉛筆の先などを眼で追ってもらい上下左右斜めに眼だけで追えるかチェックする方法があります。明らかに頭を動かさないと出来ないとか、途中で眼が止まってしまうなどのことがあれば要注意です。眼を動かすトレーニングをやっていきますと少しずつ眼は動くようになってきます。

眼球運動が苦手な人の場合、文字情報が詰まっていると読みづらくなりますので、文字情報を減らして簡潔に見やすくする、行と行の間隔を広げる、行の長さを短くする、読む行を線で囲む、などのプリントの工夫をすることで読みやすくなることがあります。また書くべきところを分かりやすくマスをつける、マスの大きさを少し大きくするなどの工夫も必要です。

(北出勝也)
北出先生のサイト・視機能トレーニングセンター「ジョイビジョン」はこちら>>

 

■ 報告:カニングハム・久子先生講演「様々な学習障害の理解と対応」2
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日野・発達障害を考える会「スキッパー」講演会レポートの続編です。

4.マグナ細胞とパルヴォ細胞、青いカラーシートの有用性

米国の大学の複数の研究で、ディスレクシア(読字困難症)の原因は、視覚情報を伝える2つの神経回路のうち、1つの速度が標準よりも遅いことである可能性が指摘されています。それら神経回路は次の通りです。

1)マグナ細胞組織
位置、動き、形、淡いコントラストを素早く処理する大きな細胞
2)パルヴォ細胞組織
色、静止状態像、詳細部分、鮮やかなコントラストを処理する小さな細胞

読字の際には、光が網膜の光受容器に当たり、そこでの像が前述の2種類の細胞によって、脳に送られて「像」を理解します。ディスレクシアの場合、マグナ細胞が標準よりも小さく、そのことで「淡いコントラスト」の処理が普通の人よりも遅いことが認められています。つまり、2つの細胞の機能がドッキングする際にトラブルが生じていると考えられています。

その研究の過程で、透明な青いカラーシートを紙面に被せると80%、読字能力が上がることが報告されています。原因は解明されていませんが、光の中の赤の光がマグナ細胞に拡散することが細胞の処理速度を落としており、青のフィルターが赤の光を取り除くことで、マグナ細胞を正常に機能させるのではと推定されています。

5.視覚統合能力を困難にする4タイプ

聴覚同様、視覚に関しても、異なった困難のタイプがあります。

1)識別機能…似た文字の区別ができない
例えば「し」と「つ」、「た」と「な」の区別ができないなどです。漢字がだんごのように固まって見えたり、送り仮名と漢字の関連が判別できなかったりします。

2)前後庭認識機能…背景や前景から見るべきものだけを認識できない
例えば、雨の降っている中で傘をさしている子の絵なら、子どもを指摘することができません。雨の斜線に強く刺激されてしまうからです。ペーパーテストの見落としが多く、ものによくつまづきます。注意散漫という批判を受けがちですが、見るべきものが見えていないのが原因です。

3)文字構成機能…語を形成する文字のすべてを全体的に認識できない
例えば、「さくら」という3つのひらがなを書き出すことができないとか、2語以上の句や文は、一部を見落としてしまう傾向があります。また、筆跡が変わると、混乱させてしまうことがあります。

4)物体構成機能…全体より末節に注意が向けられがちで、見落としが多い
例えば、顔の絵を描かせると、鼻や耳がなかったり、家の絵を描かせると壁を形成する線の一部が欠けていたりします。

これらの問題は、1つだけの場合もありますが、複合して症状をより複雑にしている場合もあります。いわゆる視力には問題がないので、専門家に診断してもらい、視覚統合訓練など、その子に合った適切な対応をすることが大切です。

残念ながら日本には専門家が少ないのですが、いくつか知っている範囲で、信頼できる専門家のいる施設を上げておきます。
かわばた眼科(千葉・浦安)
クリニックかとう(神奈川・川崎) 
JoyVision(兵庫・神戸)  ※北出先生です。

※編者注
最近、立ち上がったばかりの発達障害に関するサイト Diversty Online でカニングハム先生の別の講演がレポートされていますのでご覧ください。
「脳から見た思春期の特性--その理解と対応」at 明蓬館高等学校…レポートはこちら>>

(五藤博義)

 

■ グッズレポート:「ウェザーステーション」
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今日はお出かけ。天気予報は曇りだけど、寒くなるのかな~?
予想最高気温なんかも発表されるようになってはきましたが、どんな服装がよいかまでは分かりません。肌寒さは湿度なども関係しますから。

着るべきものを助言してくれる温度計があったら、と探してみたら、米国でこんな商品が販売されていました。US$ 39.95なので、4,000円くらいでしょうか?

子どもたちが朝起きた時に、自分で着る服を判断するのに役立つかもしれませんね!

ヴァラエティカフェ・グッズレビューはこちら>>

レヴュアー:yoshiko

 

■ あとがき
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ATACカンファレンス2012東京で発表することになりました。東京大学・先端科学研究所の中邑賢龍教授が中心に、障害のある人や高齢者の自立した生活を助ける電子情報支援技術とコミュニケーション支援技術に関して、研究や実践の発表が2003年から毎年行われております。

発表内容は公募され、編者は12月22日午後1時30分から口頭発表を行います。22日は有料ですが、23日は東大の安田講堂で無料公開されますので、お時間のある方はご参加ください。
ATACカンファレンス2012東京の詳細はこちら>>

今年最後のメルマガは、12月28日(金)の予定です。
インフルエンザやノロウィルスが大流行しているようです。忙しい年の瀬、お身体には十分にご注意ください。

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